○山行地 西頸・田海川支流倉谷~千丈峰大ギラ
○山行日 2016年5月21日
○メンバー L松木智 古川
○報告者 松木智
糸魚川の千丈峰は標高807.2mの低山だがその東西には大ギラ、小ギラと呼ばれる岩壁が広がっており、千丈峰東尾根の北面には小ギラが、千丈峰の南西976Pから延びる北尾根東面の岩壁帯が大ギラだ。
糸魚川から大糸線に入ると黒姫山から明星山の山並みの中にその岩壁帯を認めることができる。興味はあったが登山道の無い奥山であり、アプローチ、下降ともに厄介なことから今まで手を付けずに眺めるだけの岩であった。
昨年この辺りをウロウロした際、倉谷に下りる作業道を見つけ、沢を使ってこの岩壁にアプローチできるのではないかと考えた。どこまで行けるか分からないが、せめて岩壁の写真だけでも撮ってこようと、リカチャンを誘った。
糸魚川の姫川を渡り田海川に沿って南へ車を走らせる。横地集落でマイコミ平に向かう分岐を見送り林道岡~倉谷線を進む。ダムの少し上流、地形図上で林道表記が途切れた少し先に谷に下りる作業道がある。ゲートを突破して藪の煩い急勾配の作業道を下ると河原の平坦地にでる。作業道は川を渡って左岸へと続いているが橋は無く、ここで車を降り歩き始める。
左岸に上がると「私有地につき立ち入り禁止!」の看板に迎えられるがそのまま先に進む。藪に覆われた作業道を上流へと向かう。川には4つ程堰堤が掛かっているが高さ6mの最後の堰堤に進路を阻まれこれを乗り越すと倉谷の流れに降り立つ。
ここからいよいよ沢歩きとなる。入渓点の標高はおよそ150m、しばらくは平坦な沢歩きが続く。標高約200m、行く手を三段20mの滝に阻まれる。もちろん直登は無理!「今日はもう終わりだな…」と、山菜採りへとモード変換を考えていたところ、「ここから巻けそうですよぉ~」と左岸の急な斜面を指さしてキラキラした眼差しを向けてくる。
仕方なく、のろのろと斜面に取りつくと草付の上部はカヤの木の枝を掴んでの木登りであり、滝の左岸にあったルンゼの上部に出る。このルンゼを左上気味にトラバースするが、ブッシュが無く、足元が心許ない。失敗すれば滝の基部まで落ちてしまうのでザイルを出して確保する。40mのトラバース後獣の通った後を見つける。沢に向かって下降気味に伸びており、これを辿れば難なく沢に下りられると踏んで跡を辿る。途中カヤの木を使ってトラバースをしているうち跡を見失うが、水音が聞こえており、その方向へ進むと滝の落ち口に飛び出した。
滝の基部から吹き上がってくる風は心地よく、日陰に居ても少しの寒さも感じない。下界は真夏日の暑さとなっているようだ。ところで、二股はいつになったら現れるのか?標高約250m付近の沢の分岐をとりあえずの目標にしていたので、とにかくそこまでは行きたい。
再び遡行を開始してほどなく沢は二つに分かれ、その先右手前方には大きな滝が見えたため、はやる気持ちを押さえながら右の沢を進んだ。滝の正面に立つとその流れは途中で空中を舞い霧となって周囲を濡らしていた。高さは30m位だろうか…。今度こそ「終わりだな」と遅い昼食を取っていると、「あの辺から登れませんかねぇ~」と、リカチャンが煽ってくる。左岸の藪っぽい中の薄いルンゼが登れそうだが、そう簡単には行かないだろう。案の定、滝の落ち口と同じ高さになると行く手を垂壁帯に阻まれ、生半可な装備では登れなくなった。それでもと、垂壁体の基部を移動し、登れそうな場所を見つけてザイルを伸ばすが、岩が脆くあえ無く敗退となる。さすがのリカチャンもこの事態に撤退を決め下降する。
垂壁帯の基部から見た滝は、上部のスラブ帯から続いており、スラブ帯の末端が断崖となっていることから滝状に落ちているものであることが分かった。この滝は倉谷の標高約250mに位置し、大ギラの岩壁に達するにはまだほんの序の口である。この先谷にはどんな悪場があるのか計り知れず、沢登りならばまだしも、大ギラのアプローチとしては現実的ではない。別のルートを考えなおさなくてはならないだろう。
目的を達成することはできなかったが、女性二人で未知の沢に入り、それなりに緊張を強いられた山行を安全にできたことに久しぶりの充実感を覚えた。年々守りに入った山行が多くなる中、若いメンバーにはっぱをかけられるのは情けないことではあるが、反面仲間の成長を頼もしく嬉しく思った今山行であった。